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AI技術を取り入れながら、コンピュータで“人間らしさ”を表現したい。

2018年10月26日掲出

コンピュータサイエンス学部 岩下 志乃 准教授

岩下志乃 准教授

 コンピュータサイエンス学部では、先進AI分科会を立ち上げ、AIの応用研究を進めています。今回は同学部の岩下先生がリーダーとなって進めているAI研究や、研究室での取り組みについて伺いました。

■先進AI会で、先生が中心となって進めている研究についてお聞かせください。

 「深層学習による『雰囲気』の理解と説明文・対話文の生成」というテーマで研究をしています。具体的には、さまざまなセンサから得る画像や音声などのデータをもとに、その環境の持つ雰囲気や空気を理解して、その状況に合わせた説明文や会話文を人工知能(AI)で生成しようと進めています。ただ、AI分野は非常に広いですから、コンピュータサイエンス学部(以下CS学部)でも、AIを完全に専門にしている先生、特に最近主流の深層学習を使ったAI技術を専門とする先生は多くはありません。ですから最初の2年間は、各先生方の専門分野でAIを使ってどういう研究ができるかということを探りながら進めて、3年目以降、それぞれが進めてきた研究を組み合わせてみようと考えています。
 私自身の専門は自然言語処理ですが、これまでの研究でAI技術を使うことはあまり多くなく、どちらかというと語彙の使い方など、人間側を分析することや、人の評価基準はそれぞれ違うので、それをコンピュータにいかに理解させ、どう人間らしさを表現するかということに取り組んできました。今回は、これまでの研究とAI技術を併せることにより何か新しいことができるかもしれないと感じています。また、本学部の柴田千尋先生が深層学習の研究をされていて、なおかつ言語もひとつのテーマとして研究されているので、共通に持っている研究課題から、今回のプロジェクトテーマを決めたのです。
 現在はまず、私と柴田先生、グリムベルゲン先生が中心になって、説明文の生成に関する研究を進めています。例えばゲームの実況や将棋の局面状況の説明に関しては、グリムベルゲン先生が担当されています。また、動画に対する説明は私の研究室で研究を始めています。今、4年生が卒業研究として、駅の防犯カメラに映っている映像から、例えば線路に落ちそうな危険な動きをしている人がいるとか車いすの方がいるといった状況を言葉で自動的に説明できるようにしようと取り組んでいます。何か危険があったときや注意が必要なときだけ、駅員に「今、車いすの人がいます」と音声で知らせることができれば、危険の察知に役立つのではないかと思います。
 また、4年生の中には、AI技術である深層学習や機械学習を使って、Twitterなどから皮肉表現の抽出を試みている学生もいます。近年、SNSにおいて人間関係に悪影響を及ぼすことが多い悪意のある表現を抽出しようとする研究が多く行われています。そのような表現の中でも抽出が難しいとされている皮肉を自動抽出しようという研究です。コンピュータに皮肉の分類をさせるためには、最初に「これが皮肉だ」と教えてあげるデータが必要なので、今、それをつくっているところです。具体的にはTwitterのツイート文を大量にダウンロードして、学生たちが協力しながら、それが皮肉か皮肉でないかをラベル付けしているところです。今は人力ですが、ある程度ルールができたら、今後はAIが皮肉に対して、自動でラベル付けできないかと考えています。

人間の「勘」を再現する
監視カメラからの説明文生成

■テーマにある“雰囲気”は、どのように読み取るのですか?

 何を対象にするかで読み取る必要のある「雰囲気」は変わってきます。例えば顔の表情から雰囲気を読み取れますし、ゲームの場合は時系列データがどう変化していったか、その状況変化の方向性から雰囲気を読み取ることもできると思います。あとは、私が少し前に行っていた研究に近いのですが、人間には“間”というものがあるので、時系列データであれば、人間のちょっとした“間”からいつもと雰囲気が違うとわかるかもしれません。ただ、雰囲気に関してはもう少し研究が進んでからの話になるので、今はまず、データから状況を把握して言語化するという部分に注力しているところです。
 また、将来的にはIoT機器から得られた情報の説明もできるようにしたいと考えています。IoT機器は時系列データの宝庫です。例えば、ある場所の温度と監視カメラの映像があったとして、大量の数値データと画像データから、過去のデータと比較した現状を把握するには時間がかかります。「今日はいつもより人が多くて部屋が暑い」といったような言葉で現在の部屋の雰囲気を説明できれば、状況を直感的に理解しやすいのではと思います。

■どういうところに、AI研究の難しさを感じますか?

 機械学習や深層学習には、データが大量に必要になるので、それをどう集めるかということで、毎回、苦労しています。一般的に「こういうときに同じ単語がよく使われる」といったことは、Twitterやウィキペディアなどの言語データから学習させやすいのですが、ある目的に合わせたデータをどう集めるかが一番の難題ですね。

■この研究の目標とは何でしょうか?

 この研究に限らず、私の研究には大前提として“人間らしさ”というキーワードがあります。機械学習でコンピュータに一般的な人間のルールを学ばせて、人間のような行動をさせることは可能だと思いますが、そこにもう少し個性やより深い人間らしさみたいなものが出せたらと思っています。例えば、質問したら正しい答えが返ってくるということは、もちろん重要ですが、そこだけを目指していると、人間の良さが活かせなくなる気がしていて。ですから文化や相手の背景まで理解して、相手がこういう人だからこう対応しようと、人間が自然にしていることをコンピュータでもできるようにしたいというのが最終的な目標です。
 私自身、機械を研究対象としてはいますが、結局は人間に興味があるんですね。どちらかというと、効率的な機械よりは少し無駄があっても人間らしさがある方がよいと思っています。人ってその時々で言うことが違ったり、わからないと適当に誤魔化したりしますよね。そういう人間らしさをコンピュータでどう表現するかということに、一番興味があります。

■では、先生の研究室での取り組みについてもお聞かせください。

 今は、言語系、感性系、インターフェース系の3本柱で研究を進めています。言語系の研究の一例としては、ニュース記事の自動要約があります。まず、ニュース記事から重要な文を3文程度抜き出します。それらの文を形態素解析し、単語に分割します。次に、構文解析のひとつである係り受け解析を行うと、文節の区切り位置と、どの文節がどの文節に係っているかという係り受けの関係が得られます。このような文の構造を基に、重要な文節を残して短く要約することを試みています。この研究は何年か取り組んでいるのですが、課題としては、重要な文節を残すことで、例えば「サッカーだけでなく野球も好きだ」という文から「野球も」という文節が削除されて「サッカーだけでなく好きだ」のような不自然な文になってしまうことがあります。その部分を今年はもう少しうまくできるようにしようと取り組んでいます。

ニュース記事から重要な文を取り出し,さらに要約して出力

 感性系の研究では、例えば対話エージェントといってキャラクターが人に対して話すような、対話時に使うエージェントの動作と話す言葉から、人がどう感じるかを評価する研究をしています。動きをどうしたら人が自然だと感じるかといった印象調査です。また、今年の卒業研究生が取り組んでいる研究に、「心地よく目覚めるための音の分析」という面白いものがあります。朝、起きるとき、人に色んな音を聞かせて、どの音で最も心地よく起きられたかを分析するという実験をしているところです。
 インターフェース系では、スマートウォッチで何か情報を伝えたいときに、どう表示したらわかりやすく伝えられるかという研究をしている学生がいます。スマートウォッチは腕時計のようなものなのでスマートフォンより画面が小さいうえ、四角だけでなく丸型のものもあります。丸い画面に文字を表示するのは難しいので、どう表示したら見やすいのか、丸と四角でどう違うのかなどを確かめたいと思っています。それからVRにおける人の酔い方の違いについて調べている学生もいます。背景の違い、オブジェクトの動き方の違いなどのVRコンテンツによる酔いへの影響と、車酔いしやすさ、男女の違い、ゲーム経験などのユーザ特性による酔いの違いについて実験しています。

VRのステージや移動方法の違いによる酔いの個人差を分析

■受験生・高校生にメッセージをお願いします。

 私の座右の銘に「己を知る」という言葉があります。人にはいろいろな得意・不得意があります。それぞれの人が得意なことを活かし、不得意なことを補い合うことで、社会が出来ています。私は良くも悪くもあまり得意・不得意科目が無かったので、高校生の時にどの道に進もうか悩みました。何となく好きだった理系の道に進みましたが、大学には既にバリバリにプログラムを書くことのできる人もいて、自分の才能の無さに落ち込んだこともありました。研究室を選ぶときに人の感性を扱う感性情報処理に出会い、様々な分野の境界領域にあるこの分野に魅力を感じましたし、私にも勝負できるのではないかと思いました。自分の特長を知っていれば、迷ったときに進む道が自然に見えてきます。コンピュータサイエンス学部にはコンピュータに携わる様々な道が用意されています。是非、自分に合った道を見つけて頂きたいと思います。

■ コンピュータサイエンス学部WEB:
https://www.teu.ac.jp/gakubu/cs/index.html

・次回は11月9日に配信予定です